エビエンのちょっとした努力
執筆:蓮花(エビエン)
挿絵:桃李(リジル・アル・ジャウザ)/ruka(バラー)
炎の料理人・エビエンはまさしく今、この時、燃えていた。ある決意を固めたからである。
「自ら進んでイケメンのお兄さんと交流してみよう」という決意である。
エビエンはイケメンと呼ばれるお兄さんたちが苦手である。アレルギーに近い。
その昔、何かキラキラした変ジンに迷惑をかけられて以来、体質的にこう、馬が合わないというかソリが合わないというか…。
ということで、今朝目が覚めたらそんな気分になっていた休日、先日共用天幕で会った護衛のリディアンが「抱きつくと慣れるかも」とアドバイスをしてくれたので、
そのツテで、ひとりイケメンの護衛をしている護衛さんを紹介してもらった。
バラーという少年である。
これがまたけっこうなかっこよさに加え、背が自分より高かったのでエビエンはちょっと癪に障ったが、
しかしお兄さんはそんなことは気にしません!!という態度で乗り切った。多分。
「今日はよろしくお願いします!」
元気よくバラーが挨拶してきた。体育会系である。エビエンはこういうノリは嫌いではない。
「おう、よろしく頼む!!ってーか悪ぃな、護衛の依頼じゃなくてよ」
相手が勢いよくお辞儀をしたので自分もお辞儀し返した。が、元の体勢に戻った今も、相手はお辞儀の状態を保ったままだ。
「…どうかしたか?」
「…あの…それが…ですね…」

話を聞くと、ちょっと目を放した隙に、目的の人物はどこかへふらりと遊びに行ってしまったのだという。
それはその人にとっては日常茶飯事なことらしいのだが、よりによってこんな時に…と少年は気を揉んでいた。
「ああ、あんまし気にすんなって…突然押しかけたのはこっちのほうなわけだしよ…」
「ですが、エビエンさんの任務を妨害するわけには…あの、すみませんが一緒に探していただけませんでしょうか」
そんなこんなで、エビエンの抱きつく相手の捜索が始まった。特徴は、薄茶色の髪の毛に孔雀の羽根を付けた人物だそうだ。(そしてイケメンである)
しかし「任務」ってどういうことだ?とエビエンは思った。あの仲介役はいったいどんな説明をしたのだろう。
そんなわけのわからない任務を負った料理人が、どこの世界にいるんだ……多分、今ここにひとり。エビエンは乾いた笑いを漏らした。
まずは人の多い露店市場を手分けして探してみた。それらしき人物は見つからなかった。バラーのほうも、見つけることはできなかったようだ。
次に水辺の周辺。木陰で昼寝をしていることもあるという。このオアシスは若干ナツメヤシが多めに植えられているので、
その合間を縫って探すのはちょっとした苦労であった。



2,3時間ほど探し回っただろうか。
目的の相手は、バナナ園の中で、ゆっくりと休息を楽しんでいるようだった。
「あ、あれです、あそこにいるのがリジルさんです」
「おー…あれかー…確かになんとなく周りが輝いて見えるぜ…!」
「は?」
「…いやなんでもない…」
エビエンの息は上がっていた。そりゃそうだ、現役の時とは違うからな…ぜーはー。
バラーはさすがに護衛なだけあって、長い探索もさほど苦ではなかったようだった。
「よし、じゃあ任務遂行に行ってくるぜ…」
「はい!ご武運をお祈りいたします!」
ちょっと待て、この「任務」は武術系なのか…エビエンは少々朦朧としてきた頭の片隅で、そう思った。
「あのー、リジルさんですか…」
意を決して声をかける。相手は顔を上げた。眩しい!眩しすぎて涙が出そうだ!!
「そうだけど、僕に何か用かな?」
「はい、あの、えー…失礼します!!」
ぐあばっ!!
エビエンはリジルに勢いよく抱きついた。抱きつかれた相手は少しの間きょとん、としていたが、さすがに驚いたようで、
「うわっな、なんだい急に!?何、君、僕のファンか何か?…あ、バラー君!!」
「リジルさん、こんなところで何をしていらっしゃるのですか?」
「見ての通り、知らない人に抱きつかれてるよ…あれ、この人気絶しちゃってるよ!」
「え、エビエンさん大丈夫ですか!!」
「何?バラー君の知り合いなの?」
「全部リジルさんのせいですよ!!とりあえず天幕まで運びましょう」
二人の声と、何か移動している感覚を遠くに感じながら、エビエンは意識を完全に失った。ぷっつん…。

目が覚めると、そこはリジルの天幕であった。
「あ、おはよう~エビエン君だっけ?いろいろ話は聞かせてもらったよー」
まだ若干呆け気味のエビエンに対して、リジルは楽しそうに笑いながら言った。
その笑顔は非常に眩しかった。目に痛い…。エビエンはしかめっ面になった。
「んー?何か不服なのかい?僕に会えて嬉しいんじゃなかったのかな」
「いえ…地顔なんで…」
これだ…この、やけに自信有り気な物言いが苦手なんだ…!
「嬉しいんだったら笑わなくっちゃ、ほらほらほら。あ、バラー君はね、今、水汲みに行ってる」
促されて、無理矢理口の端を上げてみた。多分引きつっていることだろう。
「ほらほら、やっぱり笑ったほうが男前だよ」
ところで、任務って何の任務だったの?
イケメンオーラ全開の笑顔を向けられてそう訊かれた男前(らしい)エビエンは、なんだかもうどうでもよくなった。