相反するもの
「どえりゃー目に遭ったのう」
 隊商宿の休憩所に腰を落ち着け、温かい茶の入った器を両手で抱えて、ザビエラはほうと息をつく。
 学者はその隣に座り、飲み物に手も付けぬまま身を縮めている。
 それを眺めやってムハンナドは眉根を寄せた。
「すまなかった。……俺たちのせいだ」
 そこにヨミがもの言いたげな視線を向ける。ムハンナドはそれをちらと受けてから、渋い顔のまま眼を逸らした。
 するとザビエラがかぶりを振った。
「けんど、占いの通りじゃけえ、これはこれでええんじゃ。わしもこんなぁも、怪我はせんかったけえ」
 次いで首を傾げて、もう一言。

「おぬしらも、割とうまく行っとったじゃろ?」

 しばらく黙してから、ムハンナドとヨミはほぼ同時に口を開いた。
「……まあ、な」
「予想外には、ですね」
 すればザビエラは満足そうに頷いた。
「じゃろ? おぬしのルフとおぬしの棒、どっちかががなかったら、あの魔物は死ぬらんかったはずじゃけん」
 それは、確かにそうだが。
「……しかし」
 予想外の事態を起こした時点で、叱責を受けても仕方ないとは思うのだけれども。

 そこに切れ切れの声がかかった。 
「ザビエラさんの、仰るとおりでした。……お二人にお願いしていなければ、今ごろ恐ろしいことになっておりました」
 声の主は他でもない、依頼をしてきた当人の学者だった。
 護衛二人が驚いて見やれば学者は、助かりました、と小さく言って頭を下げた。


 ひどい心配性ではあるようだったが――人のいいものだ。


 ムハンナドとヨミは思わず顔を見合わせた。
 それを見やって、ザビエラがにんまりと笑った。
「ほれ、言うたとおりじゃろ」





 〈了〉

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