青碧の地にて
「本当にこっちであってるの?」
先導するクライズクラウにサーティウは問い掛ける。
「その筈、なんだがなぁ」
曖昧な返事を返せば、礫と砂を踏みつけ立ち止まる。
手に持つ地図にはこの町周辺の詳細と、先程聞いた話の内容が記されていた。
「レキが砂に変わるトコ!そこ行けば、カラスも元気!」
「正確には特効薬になる薬草があるって話だ」
「トッコウ?特攻!どーんてぶつかる!」
「『特攻』じゃなくて『特効』よ、良く効くってこと」
サーティウに窘められれば、彼はまた面白げに『トッコウ』という言葉を繰り返した。

三人は今、町から伸びた礫の道の先に居た。礫の道、とは言っても古くの石畳が風化し砕け、礫として残っているというものだ。
要はとうに廃れた街道の成れの果である。三人はこの道を伝い、此処まで来たのだ。
「…でもよ、信じて良いのか?あの爺さんもうボケてても可笑しくねぇ歳みてぇだったが」
「それは…心配だけどずっと召喚士だったって言ってたし、それにもう今更よ」
先程、鴉を囲む三人を訪ねたのは一人の老人であった。
長く召喚士をしていたという彼は、倒れたルフを見遣り見過ごせないと声を掛けたのだと言う。
その彼が言うに、この先礫が切れ砂に変わる場所より更に北西、青碧の砂の地にルフを忽ち治癒する薬草があるという話だ。
全く信憑性がない話だと、クライズクラウは既に諦めかけているところである。
「んー?ライズ、元気ない?トッコウ見つけたらライズも皆元気!」
「あー…気持ちだけ受け取るぜ。ていうかよ、サビの坊主は分かるんだが何で俺まで一緒なんだぃ?」
サビと呼ばれたジンの青年―サッビアシャラールはふわりと空を渡り眼の前まで降りてきた。
「皆一緒ー仲良しイッショ!」
「あそこに居たんだからもう巻き添えよ、それに星読みだって言うじゃない。案内してよね」
「昼だとまだちぃと自信ねぇんだがな…ま、構いやしねぇよ」
嘘臭いと思いつつも、こうして頼まれれば断りきれないのはもう性分と言うべきだろうか。
どの道、そこに何もなければ諦めてくれるだろう。其の程度に思っていた。

「此処で終わりみてぇだな」
眼前の砂砂漠を見渡し、クライズクラウは最後の礫を踏みつけた。
終わりという言葉を聞き、サビは地面を蹴ると意気揚々と空へ舞い上がった。青碧の砂とやらを探すつもりなのだろう。
「此処から北西だったわね」
「だな、まぁこういうのはあったとしても大概簡単には見つから、」
「ライズー!ティウー!セイヘキ、セイヘキ!」
頭上から歓声に近い声が降る。
驚き顔を上げると、サビがその方を指で示しながら嬉しさを体現するかのように宙を舞っていた。
その様子を見遣れば、サーティウはクライズクラウに若干冷めた視線を向ける。
「………見つからないものじゃなかったの」
「…その筈だったんだがなぁ」
そうぼやく内にもサビは居てもたっても居られないと先にその方へと飛んで行く。
だが、その飛んで行く方角を確認すればクライズクラウは首を傾げた。
「…可笑しいな、あの方角じゃ南西になっちまう」
サビが見つけた青碧のある方角は、老人が言う北西ではないのだ。
しかしこの見渡す限りの砂砂漠で青碧という色は目立つだろう。サビが見間違ったとも考え辛いものがある。
「あのおじいさんが間違えたんじゃない?」
「かも知れねぇが…引っかかるな」
「行って見れば分かるわよ」
サーティウが軽くクライズクラウの肩を叩けば、一つ竦めて見せた。

漸くサビに追いつく頃には、二人の眼にも青碧の砂を見ることが出来た。
それは雨が残した溜まり場のように、黄土の色をした砂に円を描いていた。
老人は青碧の砂の地と言っていたが、大きさは大したものではない。精々人一人が寝そべられる程度の大きさだ。
そしてその中央、青碧の色に混じる若草に目が止まる。
「あれじゃないかしら」
サーティウが早速と、駆け足になったところあっ、と空から制止が掛かる。
「ティウーまだ行っちゃダメだぞぅ!」
「…なんでよ」
サビを睨むように言えば、彼は朗々と答えた。
「そこ砂じゃないんなー」
向かい風が吹く。砂が巻きあがり、三人の身体に打ち付ける。
その砂の色は、黄土の色であった。
「え…どういう」

ぞぐり

サーティウが怪訝の色を見せるその背後、青碧が隆起した。

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